11月に発売された母のスタンプ(気まぐれニャンコたち)は、翌日にはクリエイターズスタンプのトップ100位以内にランクインし、お金をかけてプロモーションを打っているわけでもないのに、ユーザーに使われ、使われることで広まるサイクルで、じわじわと順位を上げていきました。
LINEスタンプはその競争率の高さから「博打」と見なされることもあります。実際に「適当に作ってアップしてみたらぼろ儲けしました」という人も少なくないようですが、そうやって「博打で成功した人」と「着実に積み上げてきて成功した人」とは分けて考える必要があります。前者には再現性がなく、後者には再現性があります。僕の母はどちらかというと不器用な後者であり、成功までには明確な道のりがあります。この道のりには一定の情報価値があると個人的に思い、僕なりに分析して記事にまとめることにしました。

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1.イラストの技術をずっと磨き続けてきたこと

母はもともと請け負い仕事でイラストを描いていました。「描きたい絵と仕事絵のギャップがあること」を原因に仕事の請け負いをやめた時期もあったけれど、その間も絵を描くこと自体は決してやめませんでした。「シェ プッペ」というアンティークショップを経営しながら、家事をしながら、忙しい時期でも言い訳することなく合間の時間を寄せ集めては毎日何時間も画材と向かい合っていました。
母の絵はすごく独創性が高いわけでもなく、有名イラストレーターのように商業とマッチしているわけでもないけれど、10年、20年というスパンで繊細な水彩画・色鉛筆画はただただ真摯に磨かれていきました。
水彩から色鉛筆に持ち替えたり、「自分の描きたいモチーフ」に限って仕事絵を再開したりといった”トライ”も大切にしていました。成人した子どもが2人もいるような年齢からPhotoshopやIllustrator(注:画像編集用のソフトウェア)の使い方をマスターして、ポストカードを作ったり、色調整やレイアウトの要素を取り入れて創作の幅を広げてきました。

母は時間をかけて細かく描き込むために、紙の目の細かい"ケント紙"という画材を使っています。このため日が沈んで室内が暗くなると、絵のディテールが見えなくなって描けなくなってしまいます。冬が来て日中が短くなるたびに、母はそのことを残念がります。それほどにイラストを中心に据えた生活を送っています。

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2.「見る人」からのフィードバックを大切にしてきたこと

アートの分野では商業における需給バランスが悩ましい問題です。才能があって努力をしていても「商業に合わない」という理由で絵とは別に食い扶持を持つ必要に迫られるアーティストが毎年美大から輩出され続けています。若手アーティストの集まる展示会を見に行くと、その完成度や芸術性の高さに感動させられるけれど、商業的に必要とされるのはその中のごく一部です。
「芸術と商業の折り合いをどう付けるか」はこれまでも議論されてきたし、これからもたくさんの人が頭を悩ませる問題だと思います。

母は自分の描きたい絵だけを描き続けながらも、描くことだけに満足することなく、個展を開いたりウェブサイトで発信したりと、常に「見られる」ことにも気を配っていました。ビジターの感想を聞いたり、ウェブサイトのアクセス履歴を見たり、ポストカードを作って販売したりすれば「どのイラストが人気か」ということが多面的に分かります。
自信作に人気がないことに悩んだりもしながら、発信することでフィードバックを得て、マーケットの感覚を母なりに学び続けています。

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3.ファンのコミュニティをつくり続けてきたこと

個人の作家を成功に導くのはファンです。1:nの関係を大きくしていくことが作家として成功するための鍵であり、ここに取り組まない限りは請け負いで「1枚いくら」の仕事をしていく他ありません。

個展やグループ展といったアナログから始まり、mixiのコミュニティで意見交換の場を作ったり、Facebookページで創作活動を発信したりと、トレンドにキャッチアップして母はコミュニティ作りを続けてきました。
他にもブログ・pixiv・Pinterestと時代の流れにあったツールを愚直に取り入れてきたこと、そこで丁寧な運営を続けてきたことがファンの基盤を作り、少しずつ、着実に実を結んできました。
LINEスタンプに取り組んだこともその延長上にあります。このスタンプがより多くの人の目に留まることで、ファングループがまた一回り成長していくのだと思います。

さいごに:母がLINEスタンプをヒットさせるまでに回してきたサイクル

母は技術を磨き続け、マーケットの感覚を知り、時代に合ったツールでコミュニティを作り続けてきたことで、LINEスタンプをヒットに結びつけることができました。
技術があってファンの目を意識していたからこそコミュニティを作ることができて、コミュニティがあったからこそ初期にスタンプをランクインさせることができました。ファンの目を意識していたからこそ実際に使われて、使われることを通して広まっていくというサイクルが生まれました。博打とは違って、このサイクルには背景があり、一定の再現性が認められます。
ただし、イラストカテゴリでこのサイクルを生むことができる人は現実問題としてわずかだと思います。感性と商業の折り合いをつけることは難しく、長い目で見たら正しい方向に進んでいたとしても成果が出るまでに気の遠くなるような時間がかかります。「水をあげても肥料をまいても10年間芽が出ない」ということが起きたときに、それでも続けられる人はほとんどいません。

何年もひっそりとしていた土を耕し続けた母が一定の成功にこぎ着けられたことは、その姿を近くで見ていた僕から見て本当に喜ばしいことです。このまま流れに乗って作家としての活動の幅を広げていけば、描きたい絵を描いて、それを仕事にしていくことができます。ファンの基盤があるからこそ再現性があり、着実な進歩があります。
この記事が読者やイラストレーターにわずかばかりでも勇気を与えられること、母のファンを少しでも広げられることを願って筆を置きます。


 LINEスタンプ:気まぐれニャンコたち
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とてもかわいい猫のスタンプ。このスタンプで謝られたりしたら許さざるを得ないです…!


Facebookページ:Seiko Ogisho Art Gallery
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母の創作活動を発信しているFacebookページ。猫、小鳥、少女、スイーツ、植物画がメインです。