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2019年は「個人」に立ち戻ることができた1年間だったように感じます。

ことの発端は資金調達です。
僕がCEOを務めているニューロープは2018年と2019年に1回ずつ、ラウンドを重ねています。
それまでは、個人事業主的にデザインやウェブ制作をして、いただいた対価を事業資金に投下するということを続けてきました。
本業のファッションAI事業にコミットしながら、隙間に制作案件を敷き詰めて、それこそ帰りがけのスーツケースのように無理やり押し込んで、制作案件だけで毎月50万円とか100万円とか稼いで、そのすべてを会社に突っ込んできました。
長らくそこに「自分の時間」の入る余地はありませんでした。
しかし調達額や月々のキャッシュフローが大きくなってくると、その50万円や100万円が担う役割が相対的に小さくなってきます。平たく言うとそれまで必死こいてやってきたことの意味があんまりなくなってくるのです。

加えて、会社のメンバーが増えてくるとその一挙手一投足にまで目を配れなくなってきます。
もともと僕はマネジメントするのが好きでも得意でもなく、少人数の頃から意思決定含めてメンバーに任せてきた背景も手伝って、今や僕がディティールを把握していない話が社内には既にたくさん生まれています。
今さらマイクロマネジメントをやろうと思ったって無理な話です。
裏を返すと僕が介在しなくても物事が進むようになっていると言えます。

ニューロープという会社と自分とが長らく不可分の関係にあったのが、遠心分離機にかけられたようにそれぞれ析出されて、異なる物質としての振る舞いがあらためて認めやすくなってきたというのが2019年でした。

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遠心分離機のイメージ

放り出される格好になった僕が求められるロールも当然変わってきます。
「会社のフェーズによって中の人に求められることが変わってくる」というのはよくある話ですが、個人からするとそれなりに大きな転換点となります。
会社に対して衛星の1つとして何ができるだろうかということを、文字通り距離を取って考えながら、時間を割り当てる対象を変えていく。
意識的に変えたところもあれば、細胞が設計図に合わせて自ずとかたちを変えるようにして結果的に変わったところもあります。

このとき「ニューロープ」という僕に対して強すぎる引力を持つコミュニティとのバランスを保つ上でワークしうるのはやはりコミュニティでした。

「17世紀のサロン」のように意見を交わすコミュニティ

2018年の後半から何となく所属していた「Salon no Salon(以下、5n5)」というオンラインサロンがあります。
発起人であるナカヤマン。さんを中心にクリエイターや起業家、フリーランスなど名のあるメンバー比率がやたら高くなっているのが1つの分かりやすい特徴です。
もちろん企業の中で活躍なさっている、モチベーションやスキルの高い若手や中堅の方々もたくさんいらっしゃいます。
起業家の中にもグラデーションがあって、同世代もいれば、ずっと先を行っている先輩方もいます。

1つ言えるのは「原理的にはフラットな関係になっている」ということです。
上司や部下みたいな上下関係はないし、抜けたければ抜ければ良い。
仮に気に食わない人がいたら相手にしなければ良いし、違うと思ったらそう言ったら良い。
そして尊敬したい人がいれば、勝手に尊敬すれば良い。

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そういう環境に身をおいたときにあらためて気づかされるのは「競争には本質的な意味がない」ということです。
フラットなコミュニティの中で誰が勝って誰が負けるかというのは、プレイヤーにとってもオーディエンスにとっても割と些細な話です。
それよりもコミュニティの中に新しい機会や情報や考え方をもたらす人がいた方が絶対に盛り上がる。コンテンツとして面白いかどうかという反応にさらされる、極めてシンプルな構図がそこにはあります。
コミュニティや社会は本来個人にとってそういった内在的なものであったのが、個々人が各々のお財布を持つようになった資本主義社会の中で別の価値軸が生まれ、極めて分かりにくくなった背景があるように個人的には感じています。

じゃあそういう前提に立ったときに何をどうしたら良いのかという話になる。
5n5にはナカヤマン。さんを初め、「何をどうしたら良いのか」を試行錯誤してきた先輩方がたくさんいらっしゃいます。
そういった先輩方には敵わないものの、僕たちもそれなりの経験を積んでいて、後輩にはいくらか教えられることがある。逆に後輩からも、新しい価値観やその得意領域において学ぶことは少なくありません。
同世代とは腹を割って話せます。何と言っても利害関係がありません。
こういった関係性は、部分的に捉えると多くの人が体験したことがあり、その良さに共感しやすいものでしょう。
コミュニティの大きなポイントは「すべてがインクルードされていること」と「継続的なものであるということ」です。特に後者を個人で仕組み化するということはなかなかできることではありません。
そういう相互関係の中で「個人として何をインプットしてどういうプロジェクトに力を入れたら世の中の役に立てるのか」ということが輪郭を持ち始めます。

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起業して資金調達した僕には、事業をしっかり育てる責務が伴います。
ただし、お金を膨らませることだけを見ているとゴールもマイルストーンもないまま、原理的に一生幸せにはなれないことが目に見えています。上場しても「時価総額を上げる」という株主の圧力は常にあって、それをクリアし続けることは不可能に近いでしょう。
やるからにはやりたいやり方で世の中にsomething newを生み出しながら、その上でエコノミクスも成立させたい。それくらいのわがままを通さないと割に合わないところがあるし、株主の向こう側にある世の中をコミュニティとして捉えたときにそちらの方が還元できるものは大きくなるはずです。
この「主客転倒」を決意したことがある人も少なくはないでしょう。難しいのは継続させて、やりきることだと思われます。そういう価値観を持っている人の絶対数が少ないため、維持するための力学が働きにくいことが原因の1つです。

主客転倒させたまま進めていくに当たって自分がどういうロールを担うべきなのか。
そのためには何が足りないのか。
そういったことに気づかせてくれて、必要なアクションやそのヒントをくれているのが、僕にとっては5n5というコミュニティでした。
何に時間を使って、何に時間を使わないかを決めていく連続性の上に僕たちの人生はあります。
会社に対するロールを見つめ直すタイミングであった僕にとって、これ以上の受け皿はなかったのではないかと思います。

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結論として僕が何に時間を使うようになったかという話を明文化するとどうしても陳腐になってしまうので簡単に触れるくらいに留めておきますが、人と会って話をすることや、歴史や文化を学ぶことや、それらを少しずつコミュニティや事業に還元するかたちでアウトプットしていくことです。
人のアクションには、劇的に新しいものはなかなかありません。誰と会うか、そのためにどういう準備をするか、どういうコンテンツと触れるか、誰に対してアウトプットするかといった機微がほとんどすべてであり、これらを文字に起こそうと思ったらもう一本記事が書けてしまうので、また別の機会に。

ここまで読み進めてくださった、こういう面倒臭い話がお嫌いではない稀有なみなさんとは、5n5でもぜひお話したいです。
サロンにメンバーが増えたところで僕に金銭的なリターンがあるわけではもちろんなく、コミュニティが育つこと自体が上述の通り僕にとってとてもポジティブであることを言い添えておきます。(もっと言うと会費がCAMPFIREで設定できる下限の500円になっていて、サロン自体がまったく収益を目的としたものではありません。)
他のサロンメンバーも、それぞれの切り口で紹介記事を書いているので、ご参考までに。
皆さま引き続き良いお正月をおすごしくださいませ!