カテゴリ: 推薦図書

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中学から大学にかけては純文学を読みふけり、社会人になってからはビジネス書や技術書を読みあさりました。
多い年は600冊、少ない年でも100冊くらいは読んでいます。
書籍は体系立ってまとめられたものであるため、「そこそこ」の領域までインプットする上ではこれ以上のものがありません。
僕が本でのインプットを大切にする理由は主に下記の2点です。

・起業家やプロデューサー職の人は幅広い領域について知識を持っていないと、的確にディレクションができない。専門家になる必要はないが、無知であることは避けないといけない。
・知っているだけで避けられる失敗があります。ビジネスは基本的にトライアンドエラーを繰り返していくもので、失敗にも大いに価値はあると思うのですが、そうは言っても数は減らせます。読書で近道ができます。

そんなこんなで正確なところは分かりませんが、少なくとも3,000冊以上は読んできた中から読んで損がない4冊をご紹介します。

人を動かす/デール・カーネギー

僕はクリエイターなので、どうしても自分で手を動かしてしまいます。自分で思い描いたものは、人にイメージを共有するより自分で作ってしまったほうが一時的には楽だしスピーディです。でもそれだとすぐに限界が来ます。
社内の誰かの力を借りる必要があるし、取引先に何かをお願いすることも増えてきます。そのためには、人に気持よく動いてもらう必要がある。個人事業主として年収1,000万とか2,000万で満足するなら話は別ですが、それ以上スケールするためには避けて通れないエッセンスがこの本には詰まっています。

 

聖の青春

重い病を抱えながらも競争の激しい将棋会においてプロ棋士にまで上り詰め、王座にまで挑んだ村山聖を描いたノンフィクション。村山聖の影には、それまで人生のほぼすべてを将棋に注ぎ込んできたにも関わらず年齢制限でプロになれずに将棋会を去った鬼才たちの半生があります。その世界は壮絶で、無情で、目標に向けて直線的に生きることは美しいけれど、そのリスクを個人が負うという意味、ひいては起業するということについて考えさせられる内容です。
何より感動するはずです。ノンフィクションってこんなに面白いものだったのかと。



人間の性はなぜ奇妙に進化したのか

生物の命題は「いかに自分のDNAを残すか」というところに集約されます。多くの生物はメスと交尾を終えると、すぐに次のメスを探します。その方が子孫を多く残せるからです。でも人間は一部の社会を除いて、一夫一妻制、妻と夫はペアになって子どもを育てます。これはなぜなのか。
人間は一見複雑な心を持っているように見えるけれど、結局”いきもの”なので、生物学的なアプローチで行動の多くを説明することができます。
自分を知るため、他人を知るためにもおすすめの一冊。何より面白いです。



ゼロ秒思考

「これがなぜかうまくいかない」「今すべきことが分からない」そういうもやもやを人は常にいくつか抱えていると思います。それは仕事のことかもしれないし、交友関係や恋愛に関することかもしれない。しかしもやもやは停滞と同じです。何とかしないことには前に進みません。
「ゼロ秒思考」は紙とペンでそのもやもやと向き合うフレームワークを紹介しています。ものごとを考えるフレームワークはたくさんあるけれど、その多くは複雑で、適用が面倒だったりします。
ゼロ秒思考の方法論はとてもシンプルで汎用性が高く、かつ強力なもの。僕もパソコンを閉じて、よく紙とペンで整理を始めます。
パワフルな思考の補助線を与えてくれる、超おすすめの一冊です。



今後も良い本に出会ったり思い出したりしたら随時更新していきます!

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働かない「働きアリ」が存在する

「アリとキリギリス」という物語や「働きアリ」という一般名詞があるくらい、アリには働き者の印象があります。
確かにアリは炎天下でも大きな食糧をほんのわずかずつ削りながら巣まで持ち帰るという気の遠くなるような労働に精を出しています。
しかし地中に張り巡らされた巣の中には、実はサボっている働きアリが大量にいます。一生働くことのないまま寿命を迎えるアリもいるそうです。

アリは社会を形成しています。子どもを生む女王アリ、卵が乾燥しないようになめ続けるアリ、巣の修復をするアリ、エサを調達するアリ。企業のようにうまいこと仕事の分担ができているものの、それぞれのアリに指示を出している管理職のようなアリは存在しません。
どうやって仕事の分担ができているかというと、それぞれの労働に対する個体の閾値をばらばらにすることでコントロールしているそうです。
アリAはちょっと巣が崩れているだけでも気になって巣の修復に取りかかりますが、アリBはちょっと崩れている程度では気にしません。このため普段はアリAの感覚に近いアリが猛烈に働いて巣の修復をしています。ところが働きすぎるアリは早死にする傾向にあります。アリAが死んでしまって巣の崩壊がかなり進んでくると、アリBも「ヤバい!」と考えて巣の修復に取りかかります。
このように仕事に対して個体ごとの「閾値」をあえてばらばらにすることで、常に適度な労働をそれぞれのタスクに割り振れるようにアリの生態系は作られています。結果的に一生閾値を超えることなく(つまり働くことなく)天寿をまっとうするアリもいるわけです。

働かない「サラリーマン」が人類を救う?

ビジネス書がお好きな方々はピンときたと思いますが、このアリの生態系とパレートの法則には何だかつながりがありそうです。組織の2割が超頑張って、6割がほどほどで、2割がサボるというあれです。全員がフル稼働している話題のブラック企業はどうか分かりませんが、ある程度規模の大きくなってきた通常の企業では2割くらいのサラリーマンが働かなくなってしまいます。
みんなが張り切ってデスクワークをしていたら人類が絶滅する、ということは考えにくいものの、さかのぼれば人はもともと狩猟して暮らしていました。ここからは完全に憶測になります。当時は主に男性が狩りに行ったり水を汲みに行ったりしていたのではないかと思われるのですが、このときすべての男性が張り切って外出していたら、例えばオオカミの群れに襲われて全滅するような可能性もあったと思います。こうなると家に残っていた子どもとその世話をしていた女性までもピンチに陥ります。仕事をサボってだらだらしている男性が洞窟の奥にいたことが想像できなくはありません。外出組が全滅したときに立ち上がるピンチヒッターとしてです。
人類はもともとパソコンを操ったりコンビニで買いものをする前提で進化した形態ではないので、生物として見たときに習性の根拠はこの狩猟民族だった頃に求めるのが自然です。サボるサラリーマンが存在するのは、もともとは人類を絶滅させないための習性であると考えられるのです。

ビジネス書も良いけど自然科学の本を読むのもおすすめ

僕は自然科学、中でも生物学の本が好きで良く読みます。
自己啓発の書籍や記事でいろいろと細かいことが書かれていますが、人間は文化人である前に生物の一種なので、生物学を学ぶと「他人が何を考えているのか」「自分が何を基準に行動しているのか」が根源的な部分で見えてくることがあります。
例えば「自分の血筋が有利に残るようにする」というモチベーションは強烈で、多くの言動を掘り進めるとここに帰結します。自分や他人の行動原理が腑に落ちると、不必要なことに悩む必要もなくなるし、自分の考えを肯定しやすくなります。
ビジネス書も良いけれど、自然科学の本を読んでみるのもおすすめです。

もっとアリのことを知りたい方はこちらをどうぞ!
すごく面白いです。

 

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

約束の時間に遅れる、傘を忘れる、電車でケータイ電話を音を出して使うなど、様々な望ましくない振る舞いを人々はしてしまう。その理由は何かを考察する一冊。
「だらしないから」とか「モラルがないから」といった個人攻撃は何も解決しないし、そもそも言い換えただけであってロジックになっていない。
行動をしたとき、その行動に対するフィードバックが行動を強化するか弱化する。取引先との約束に遅れたら取引先に怒られ、上司に怒られ、最悪の場合売上が落ちるという強い負のフィードバックが発生する。友達との約束に遅れても友達にちょっと嫌な顔をされるくらいで、特に負のフィードバックは発生しない。
フィードバックは人の行動を形成する上でとても重要な役割を果たしている。フィードバックを分析することで、望ましくない行動を抑制したり、望ましい行動を促進したりといった建設的な議論ができる。

人と会話をしていて、考察の浅さがすごく引っかかることはある。
それこそ「どうしてあの人は協調性がないんだろう」に対して「ゆとり世代だからじゃないかな」という応えで満足するような人が少なくない。(ゆとり世代の皆さんごめんなさい。僕も半分ゆとりです。)
これはメディアや他人が言っていること(ゆとり=協調性がない)という公式を覚えているだけであって、自分の頭で何かを考えているわけではない。
しっかりと行動を分解して初めて対策を考えられるようになる。

この本に書かれていることは行動経済学の一種。ビジネス書やネット記事の短文からは学べないようなことが、学術的な新書には詰まっていると思う。僕は学問をリスペクトしています。



人は、なぜ約束の時間に遅れるのか 素朴な疑問から考える「行動の原因」 (光文社新書)

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女性向けのサービスを展開するために、意識的に女性の声を聞くようにしているのですが、皆さんの口から「はあちゅう」という名前が度々出てきます。男性はあまりご存じないかもしれません。いわるゆアルファブロガーさんで、恋愛をテーマにしたリアルなエピソードやそれに対する考察をブログや各メディアで発信なさっていて、女性の心をとらえて放しません。

すごくきらきらしているわけではなく、どろどろしているわけでもなく、劇的なドラマがあるわけでもなく、言ってしまえばマジョリティの恋愛をなさっているのですが、それを女性が「そうそう!」と頷けるように明文化しているところがすごいのだと思います。
恋愛の感覚は非常にもやもやしていて、おそらく言語化できる人はあまりいません。言語化できないと自分がどういう状態なのかもよく分からないし、これからどうしたら良いのかもいまいち分かりません。それが明文化されていると、一歩先に進むことができます。一歩先に進んだところでその先にはもやもやが続いているのですが、数学者や科学者が少しずつ真実の輪を広げていくように、確かな一歩が感じられ、少し納得できて、一服つくことができるのだと思います。

そのリアリティから、江國香織さんに少し近いような印象を受けました。ただし江國香織さんの小説は非常にリアルで正視できないようなところがあると個人的には思っているのですが、これは過去を振り返って現在の感情を乗せずに書いているからであって、はあちゅうさんはあくまでも振り返った上で「それを今後にどう活かすか」という明るい視点で書いているので、性質としては似ているものの、読んでいて暗い気持ちにならないのが今の若者に合っているように感じました。
等身大の恋愛を歌にしているaikoや西野カナと(深度やベクトルは全然違いますが)近い系譜だというと分かりやすいかもしれません。以前は純文学だったものが、今は歌やエッセーとして、変わらず求められているのです。


僕は成功モデルを分解して考えるくせがあるのでここまでちょっと分析的に書いてしまいましたが、単純に一読者として学ぶこともたくさんありました。なるほどと思った部分を少しだけ引用させていただきます。

「時には、まわりの目なんて気にせず大胆に立ち振る舞うこと」
「努力で全てをねじ伏せてきた人たちも、努力ではどうにもならないことがあるのを知り、その中で工夫したり葛藤したりすることで、人間らしさを取り戻すんだと思う。」
「自分を変える作業を、相手のためと錯覚していろいろ「してあげてる」気持ちになっちゃったりもする。」
「今までは彼を忘れる努力をしていたけど、忘れないほうがよっぽど大事だって思えました。忘れていたことは全部、それが起きた瞬間はなんでもないことだったけれど、後から振り返ると、とても愛おしくて、特別で」

男である僕がaikoを聞いても何となく気持ちが分かるように、女性の視点から書かれていてもはあちゅうさんの考え方にも共感できるところがたくさんあります。感覚的には数学者や科学者と並列の存在として、敬意を払いたくなります。
生物の種として、恋愛は本来すごくウエイトの大きなもののはずで、どこまでいっても人間はここに振り回され続けることになります。女性の方が男性よりもハッピーになることに対して貪欲だから、感覚的にそのことが分かっている。男性はなぜか感覚的にそのことが分からない。でも考えるべきだし向き合うべきです。本来狩りのできなくなった男は用なしなのだから、定年のある現代において仕事にあぐらをかくことが許されないのは明白です。

あとそもそも超クールなウェブサービスやアプリに熱狂しているのはほんの一部の人間です。みんな恋愛や他のことで頭がいっぱいなんです。最先端のメディア論とかマーケティング手法を学ぶのも良いけど、はあちゅうさんの恋愛炎上主義を読んで人間の血を取り戻した方がビジネスパーソンはうまくいくと思います。

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